長年使って変色してしまった和室の畳を見て、自分で塗装してきれいにできないかと考える方はたまにいますね。ホームセンターやネットで塗料を探し、DIYで安く済ませたいという気持ち、痛いほどよくわかります。しかし、長年現場で畳と向き合ってきた私としては、畳への塗装は絶対おすすめできないのが本音です。検索すると「失敗」「ベタつき」「剥がれ」といった不安な言葉が出てくるように、実際にはリスクのしかないケースがほとんどだからです。それどころか、畳にしてもフローリングにしても人が行き来する床に塗装するのは建築の世界ではあり得ない位非常識な行いです。まして賃貸にお住まいの方なら、退去時のトラブルも繋がり安易に行ってはいけません。今回は、なぜ畳の塗装が駄目のか、そして塗装に代わる賢いリメイク術について、私の経験をもとにお話しします。
- 畳の呼吸を止めてしまう塗装の致命的なデメリット
- 塗装後に発生しやすいカビやベタつきの根本原因
- 賃貸物件で塗装を行った場合に請求される費用相場
- 失敗リスクのないウッドカーペットや表替えという選択
畳への塗装をDIYでする場合に起きる問題
「塗るだけなら簡単そう」と思われがちですが、畳という素材は皆さんが思っている以上にデリケートで特殊な性質を持っています。木材やコンクリートの床と同じ感覚でペンキを塗ってしまうと、取り返しのつかない事態になることが多いのです。ここでは、DIYで塗装を行った結果、どのようなトラブルが起きるのか、現場で見てきた実例を交えて解説します。
畳にペンキは塗れるが機能が損なわれる
技術的に言えば、畳にペンキを塗ること自体は可能です。水性塗料を刷毛で塗れば、色をつけることはできます。しかし、それは畳が本来持っている素晴らしい機能を殺してしまうことと同義なんですね。
畳表に使われているイグサは、植物のスポンジ状の組織(海綿状組織)でできていて、室内の湿気を吸ったり吐いたりする「天然の調湿機能」を持っています。この機能のおかげで、日本の高温多湿な夏でも和室に入るとひんやりとした涼しさを感じることができるのです。また、イグサ特有の香りは、リラックス効果をもたらす成分を含んでおり、森林浴と同じような効果があるとも言われています。
ここに塗料を塗ってしまうと、どうなるでしょうか。塗料に含まれる樹脂成分がイグサの表面を覆い、無数にある気孔を塞いでしまいます。つまり、畳が「窒息」した状態になるわけです。呼吸ができなくなった畳は、湿気の調整ができなくなり、部屋の空気がジメジメしやすくなります。さらに、あの心地よいイグサの香りも完全に消えてしまい、塗料のにおいが残るだけの、ただの「イグサ模様の敷物」に成り下がってしまいます。
私は職人として、畳が持つこの「生きた機能」を失うことが一番もったいないと感じます。見た目だけを一時的に取り繕うために、畳の寿命を縮め、快適な住環境を損なってしまうのは、あまりにも代償が大きいのです。
塗装の失敗で多いベタつきやムラの原因
DIYでよくある相談が「塗ってから何日経っても表面がベタベタする」というものです。せっかく綺麗に塗れたと思ったのに、歩くたびに足の裏がペタペタとくっつく感触がするのは不快ですよね。これは単なる乾燥不足ではなく、化学的な現象が原因であることが多いのです。
専門用語で「ブリード現象(可塑剤の移行)」と呼ばれる現象があります。塗料や、あるいは畳の下地(過去に塗られたワックスなど)に含まれる成分が、時間の経過とともに分離して表面に浮き出てくる現象です。特に、厚塗りをしてしまった場合や、湿度の高い日に作業を行った場合に発生しやすくなります。水性塗料に含まれる「造膜助剤」という成分が、十分に揮発せずに塗膜の中に閉じ込められ、それが後になってジワジワと表面に出てくることで、いつまでも乾かないようなベタつきを引き起こすのです。
ベタつきが発生する主な要因
- 厚塗りのしすぎ: 色をしっかりつけようとして一度に多量の塗料を塗ると、表面だけが乾いて内部が乾かない状態になります。
- 環境要因: 梅雨時や雨の日など、湿度が高い環境で塗装すると、水分の蒸発が阻害され、成分バランスが崩れます。
- 下地との相性: 古い畳に油分や汚れ、カビなどが残ったまま塗装すると、塗料が正常に密着・硬化しません。
また、色ムラも深刻な問題です。イグサは天然素材ですから、一本一本の吸水性が異なります。擦り切れている部分とそうでない部分では、塗料の吸い込み方が全く違うため、どうしてもまだら模様になりやすいのです。「新品のような青畳色」を目指したはずが、濃い緑と薄い緑が混在する汚れたような見た目になってしまい、後悔される方が後を絶ちません。
塗膜が湿気を閉じ込めてカビが発生する
これが最も怖いリスクです。塗料で表面をコーティングしてしまうと、畳床(畳の芯)から上がってくる湿気の逃げ場がなくなります。日本の住宅、特に1階の和室などは、床下からの湿気の影響を強く受けます。通常であれば畳が呼吸して湿気を逃がしてくれますが、塗装によって表面に蓋をされてしまうと、湿気は畳の内部に閉じ込められてしまいます。
その結果、塗膜の下で湿度が飽和状態になり、カビが大繁殖する環境が整ってしまうんです。表面はペンキできれいに見えていても、ある日部屋がカビ臭いなと思って畳をめくってみたら、裏側がカビで真っ黒になっていた、なんて現場を何度か目撃しました。
特に、アクリル系などの造膜性(膜を作る性質)が高い塗料を使うと、このリスクは跳ね上がります。カビの胞子は空気中に常に浮遊しており、湿度60%以上、温度20〜30度という条件が揃うと爆発的に増殖します。塗装された畳の中は、まさにこのカビにとっての楽園となってしまうのです。カビは喘息やアレルギーの原因にもなりますから、ご自身やご家族の健康面を考えても、通気性を遮断してしまう塗装という手段は慎重になるべきです。
塗料の剥がれは補修が難しく粉が散る
イグサと藁(わら)、あるいは建材床でできた畳は、人が歩いたり座ったりするたびに沈み込むようなクッション性を持っています。これが畳の良いところなのですが、塗装においてはこれが仇となります。
一般的な工作用の水性ペンキやアクリル塗料は、乾燥すると硬いプラスチックのような膜になります。この硬い膜は、畳の柔軟な動き(沈み込み)に追従できません。結果として、歩くたびにミシミシと塗膜に負荷がかかり、最終的にはパリパリと割れて剥がれてきてしまうのです。
割れた塗膜は、細かい粉となって剥がれ落ちます。これが衣服についたり、部屋の隅に溜まったり、最悪の場合は空調に乗って部屋中に散らばったりします。一度剥がれ始めた塗料を補修するのは、まさにイタチごっこです。部分的に上から塗り直しても、その周辺からまた剥がれてくるため、終わりがありません。
「じゃあ、全部剥がしてやり直せばいいじゃないか」と思われるかもしれませんが、イグサの目に入り込んだ塗料をきれいに除去することはほぼ不可能です。無理に削り取ろうとすればイグサ自体がボロボロになってしまいます。こうなると、もう手の施しようがなく、畳ごと処分して新調するしかなくなってしまうのです。
賃貸で塗装すると退去費用が高額になる

賃貸物件にお住まいの方は、絶対に独断で畳の塗装をしてはいけません。これはもう、声を大にしてお伝えしたいです。国土交通省が定めている「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」において、日焼けによる畳の変色などの「経年劣化」は、原則として貸主(大家さん)が修繕費用を負担することになっています。
しかし、入居者の判断で行った塗装は「故意・過失による汚損」とみなされる可能性が極めて高いのです。あなたが「古かった畳をきれいにしてあげた」つもりでも、管理会社や大家さんから見れば「本来の機能を損なわせた」「次の人に貸せない状態にした」と判断されます。
塗装された畳は、表面のゴザだけを張り替える「表替え」というメンテナンスができなくなることが多いです。塗料が機械に付着したり、畳床まで浸透してしまったりしているため、畳屋さんが作業を断るケースがあるからです。そうなると、畳床ごとすべて新品にする「新調」が必要になります。
賃貸での畳復旧費用の目安(6畳間)
| 項目 | 費用目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 表替え | 3万〜6万円 | 塗装していると断られる可能性大 |
| 新調 | 6万〜15万円 | 塗装で再利用不可の場合の全額負担 |
数千円の塗料代をケチった結果、退去時に10万円以上の高額請求が来るなんてことになりかねません。賃貸でのDIYは「原状回復(元に戻せること)」が大原則です。塗ってしまったら元には戻せませんから、このリスクは絶対に避けるべきです。
(出典:国土交通省『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』)
畳の塗装をDIYでするより良いリメイク術
リスクばかりお話ししてしまいましたが、古くなった和室をきれいにしたい、おしゃれにしたいという願いを叶える方法は塗装だけではありません。リスクを避け、コストパフォーマンス良くお部屋をリメイクする代替案をご紹介します。
リメイクシートを活用した床の模様替え
100円ショップやインテリアショップで手に入る「リメイクシート」も人気ですが、これも畳の上に直接貼るのは避けたほうが無難です。リメイクシートの多くは、裏面が強力な粘着シールになっています。これを直接畳に貼ってしまうと、剥がす時にイグサの表面が一緒に剥がれてしまい、畳を修復不可能なほど傷めてしまいます。
また、リメイクシートは塩化ビニル製で通気性がありません。畳全体を覆うように貼ってしまうと、塗装と同じく湿気の逃げ場がなくなり、カビの原因になります。「マスキングテープを貼ってからその上に両面テープで貼る」という方法もありますが、畳のような凹凸のある素材に対してマスキングテープは接着力が弱く、すぐにズレたり剥がれたりしてしまいます。
もしどうしてもシート状のものを使いたいのであれば、粘着剤を使わないタイプや、通気性を確保できる専用の敷物を検討すべきです。安易なリメイクシートの使用は、後のメンテナンス費用を増大させるリスクがあることを覚えておいてください。
クッションフロアなら費用を抑えて施工
できるだけ安価に洋室風にしたいなら、クッションフロア(CF)が選択肢の一つです。クッションフロアは塩化ビニル素材のシート状床材で、水に強く、木目調や石目調などデザインも豊富です。6畳分でも1万円以下で揃うこともあり、塗装用具を揃えるのと変わらないくらいの予算で施工可能です。但し、本来クッションフロアはコンクリートやベニヤ板下地などに糊付けするのが通常であり、畳の上に敷き込む際には糊付けなどをするわけにいかないので単純に広げて敷き込むだけになります。
施工時にはクッションフロアをカッターナイフで切らないと駄目ですが、畳表を切らないように下に何か下敷きを敷くなどの工夫も必要です。(万が一畳表を切ってしまったっ場合は賃貸の場合間違いなく違約金の支払いを求められるか、原状回復として表替えを要求されます。)
また、畳の上にクッションフロアを敷く場合にも湿気対策は必須です。クッションフロア自体は通気性がほぼゼロなので、そのまま敷きっぱなしにすると畳との間に湿気がこもります。
クッションフロアの施工ポイント
- 防カビ・防ダニシート: 畳とクッションフロアの間に、専用の保護シートを必ず敷きましょう。これでカビのリスクをある程度軽減できます。
- 固定方法: 賃貸の場合は接着剤はNGです。畳用の上敷き鋲(びょう)などで端を固定するか、家具で押さえて「置くだけ」にするのが基本です。
- 定期的な換気: 数ヶ月に一度は端をめくって、風を通すように心がけましょう。
クッションフロアは柔らかいため、畳の凹凸を拾ってしまい、表面が波打つことがあります。
更に端部を固定できないので、乾燥などで端部が跳ね上がりジョイント部分が口を開くように浮き上がる可能性もあります。
完璧なフラットな床にはなりませんが、手軽な模様替えとしては有効な手段です。
ウッドカーペットはELEMENTSがおすすめ

私が最もおすすめするDIY手法の一つが、ウッドカーペットです。これは薄い板をつなぎ合わせたロール状のカーペットで、畳の上に敷くだけで、一瞬にして本物のフローリングのような硬くて平らな床に変身します。塗装のように失敗するリスクもなく、賃貸でも原状回復が簡単です。
特に「ELEMENTS(エレメンツ)」という専門店のウッドカーペットは種類が豊富でおすすめです。ホームセンターで売られているものとは違い、おしゃれなヴィンテージ風やホワイト系などカラーバリエーションが多彩です。また、部屋のサイズは「江戸間」「団地間」など様々ですが、ELEMENTSなら部屋の形に合わせてミリ単位でのオーダーカットも対応してくれるので、柱の出っ張りがある部屋でもプロのような仕上がりが手に入ります。
DIY床材・ウッドカーペットの専門店【ELEMENTS】ウッドカーペットは表面が硬いので、家具の跡がつく心配もありませんし、キャスター付きの椅子もスムーズに使えます。耐久性も高く、長く使えるので結果的にコストパフォーマンスが良いですね。選び方については、こちらの記事でも詳しく解説しています。
ウッドカーペットの激安アウトレット品は本当にお得?元職人が失敗しない選び方を徹底解説します。
畳の表替えなら三条たたみに依頼する
「やっぱり畳の良さを残したい」「いっそ新品のようにきれいにしたい」という場合は、プロに表替えを頼むのが一番の近道です。「畳屋さんに頼むと高いし、敷居が高い」と思われるかもしれませんが、最近はネットで簡単に依頼できる業者が増えています。
中でも「三条たたみ」は、全国展開していて価格も明確です。1畳数千円から表替えが可能ですし、家具の移動費や配送料が含まれているプランも多いので、自分で重い家具を動かす手間もありません。何より「1年間の無料補償」がついているのが心強いですね。万が一、子供が落書きをしてしまったり、タバコで焦がしてしまったりしても、補償の範囲内であれば対応してもらえます。
DIYで材料を揃えて、養生をして、何時間もかけて塗装し、結果失敗するリスクを考えれば、プロに頼んでパリッとした新しい畳にしてもらうのは、時間的にも費用的にも非常に賢い選択だと思います。新しいイグサの香りは、何物にも代えがたい贅沢です。
畳への塗装をDIYでするよりも敷物が正解
結論として、畳の塗装は「塗る手間」「乾燥の時間」「失敗のリスク」「退去時の費用」を考えると、割に合わないDIYだと言わざるを得ません。現場を知る人間として、皆さんには後悔してほしくないんです。
手軽に洋室化したいなら「ウッドカーペット」、畳のままきれいにしたいなら「表替え」を選択するのが、賢く、安全で、満足度の高いリフォームになります。特に賃貸にお住まいの方は、退去時のトラブルを避けるためにも、敷くだけで済むウッドカーペットを強くおすすめします。
DIYの目的は、安く済ませることだけではなく、快適な住まいを作ることにあるはずです。ぜひ、ご自身のライフスタイルに合った、リスクの少ない方法で、快適なお部屋作りを楽しんでくださいね。

